Posted by 松浦巽 - 2014.08.28,Thu
中編小説。しっとり緊縛調教もの。
※内容は同人誌版と同じです
※pixivに別バージョンのお試し読みあり
※内容は同人誌版と同じです
※pixivに別バージョンのお試し読みあり
変態翁《御前》に雇われた緊縛師・辻井。その職場である秘密の地下室に、極上のペット候補・アオが送りこまれてきた。
本名も素性も知れないアオは、辻井の緩やかな調教に、やがて身も心も開いていくが……?
すべてが緊縛に彩られたピカレスク・ロマン。
▼お試し読み▼
ブルゾンを脱がせ、その下のTシャツを切り裂いたところで、思わず息を呑んだ。
「しゃれたものをつけてるじゃないか」
アオの背中には、全面に見事なタトゥーが彫りこまれていた。精緻な装飾のついた黒一色の十字架で、うなじの途中から尾てい骨の近くまで柱が通り、横木は肩甲骨の下端にかかる位置にある。ゴシック・ファッションのような意匠だが、やくざの紋々とはまた違った凄みがあり、動けばさぞや艶めかしいだろうと思われた。
無意識に指でなぞると、十字架の下の体がぴくりと震えた。
動けないようにするだけなら、縄の数はそれほどいらない。だが被縛願望のある者は、往々にして、がんじがらめに縛りあげられることを好む。彼らは、自由を奪われることだけでなく、体に食いこむ縄や拘束具の感触も楽しみたいのだ。
縛られることに慣れさせるのにも、縄を多く使うことは有効だった。縄には害がなく、むしろ心地のいいものだと教えこむためには、安全な状態で数多くの縄を体験させてやるのがてっとりばやい。それには単純に、縄をあてる面積を増やすという方法もある。
アオは、あれだけでめげたりはしなかった。
辻井が縄を取り出すと、好奇心に満ちた目でこちらの動きを追ってくる。辻井の意図を理解し、信用しているのだ。調教など必要ないぐらいに、アオは最初から協力的だった。
「それで、どうしたんだ?」
「逃げたさ」
辻井に問われて、アオは簡潔に答えた。
「あいつとは、それっきりだ」
仕事を捨て、住処を捨て、名前も捨てて、アオは逃げた。逃げて、逃げて――だが、アオを支配しようとする者は、どこにでもいた。それが現実だった。
「だけど、アオ。十字架を背負ったおまえの背中が、俺は好きだよ」
不意打ちのような辻井の言葉に、アオははっと胸を突かれた。
人一倍警戒心の強そうなアオが、どういうわけか、これまで辻井が調教した相手のなかで、もっとも辻井に心を開いているようだった。こちらの動きに驚くほど敏感に反応し、彼がどんなふうに感じているかが、こちらにもありありと伝わってくる。これほど調教しやすく、また調教しがいのある相手は、あとにも先にも、きっとアオしかいない。
そう思うと、辻井の仕事にも熱がはいった。
アオはぐっすり眠っていて、布団の上におろされても目を覚まさなかった。
「気を失っておるのか?」
御前の質問に、辻井は微笑んで答える。
「眠っているだけです。縛られると、気持ちよくなって寝てしまうんですよ。かわいいでしょう」
「ほう……」
新しいおもちゃをもらった子供のように、御前が目を輝かせてアオの体に手を伸ばす。
それを見て、辻井の胸がちくりと痛んだ。
「では、私はこれで」
これもまたいつもどおり、御前とペットを寝間に残して、辻井は隣の部屋にさがる。そこで辻井は、御前が新しいペットをひととおり味わいつくすまで、数時間待つことになる。万が一問題が生じたときのための待機だが、途中で呼ばれたことはこれまで一度もなかった。
だが、この日は違った。
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