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松浦 巽◆お試し読み

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つれない渡り鳥


装丁/フナキ ワタル さん

BL短編小説。
pixivに別バージョンのお試し読みあり
岩下が一夜をともにした行きずりの相手は、岩下の職場に派遣されてきた企業コンサルタントの南雲だった。
社員に厳しい指導をし、陰で《鬼教官》と呼ばれる南雲は、夜には岩下を誘い、淫らで奔放な一面を見せる。
そんな彼に振りまわされながら、岩下はしだいに本気になっていくが……。
先行き不安な遠距離恋愛!?



▼お試し読み▼


「隣、いいですか?」
 そう尋ねられ、礼儀としてうなずいたのが出会いだった。
 夕食時の大衆食堂。カウンター席で定食をつつく岩下の隣に、一人の青年が流れるような所作で腰を下ろした。
 知的だが嫌味のない面差し。細身の体に合ったスーツに、よく手入れされた革靴。雰囲気はやわらかく、全体的に品がいい。
 ――いい感じだな。
 ありていに言って、好みのタイプだった。
 じろじろ見てもいけないと思い、視線をはずすと、向こうから声をかけてきた。
「お勧めのメニューはどれですか?」
「ん?」
「この店は初めてなんです。じつは、出張で来まして」
 にっこり微笑まれて、岩下は顔が熱くなるのを感じた。



 岩下は、いまの職場が気に入っている。
 本社から遠く離れた地方の支社工場で、受注生産の特殊な機械部品を製造しているため、自動化が進んだ大工場とはだいぶ様子が違う。
 広くて清潔な現場には、安全のため距離をおいて各種製造機械が配置され、一台につき一人のオペレーターが操作を担当する。成形や切削、研磨など、一人ひとり別々の作業をするので、基本的に会話はない。自分の工程から次の工程へ引き継ぐときに、必要最小限の連絡事項をやりとりする程度だ。
 昼食は社員食堂でとるが、そこでも団欒が強要されることはない。座る席はおおよそ決まっていて、ごく親しい者同士は雑談しているが、それ以外はテレビを観たり、早々に食べおえて休憩用の和室で昼寝したり、喫煙所で一服したりする。
 仕事さえそれなりにこなせば、とくに干渉されることもなく、自分の世界に閉じこもっていられるのだ。
 だが、今日は勝手が違った。
「ああ、岩下くん。こっちのことは気にせず、そのまま作業を続けて」
 南雲を連れて巡回してきた工場長が、立ちどまって説明を始めた。



 ――何様だよ、こいつは!
 デスクワークの人間はみんなこうだ。現場のことなどろくに知りもしないくせに、理屈だけで難癖つけて、思いどおりにしようとする。
 ――こいつが、二週間もここにいるって? これからは、こいつの言うとおりに作業しろっていうのか? 冗談じゃない!



 《鬼教官》。
 いつしか南雲は、現場の者たちの間でそう呼ばれるようになっていた。
「やる前に無理だと決めつけるのは怠慢です。実際にやってみて、本当に無理だったら初めて無理といえるんです」
 それが南雲の口癖だ。
 たしかに正論だとは思うが、理論と実際は違うし、感情は理論どおりには動かない。
 案の定、そうたたないうちにさっそく衝突が起こった。
「無理なものは無理なんだよっ!」
 突然始まった騒ぎに、岩下が近づいてみると、人だかりの中心で二人の人物が争っていた。一人は南雲で、もう一人は、西岡というベテランの従業員だ。短気なことで知られる西岡が、南雲の襟首をつかんで怒鳴っている。



 新幹線の発車時刻に、ぎりぎりで間に合った。
「岩下さんっ!?」
 息を切らして指定席までたどりついた岩下を見て、南雲は予想以上に驚いたようだった。
「どうしたんですか!? なんでここに!?」
「工場長に、ハァ……きいて……ハァ、ハァ……追いかけて、きた……」
 急いで会社を飛び出してきたので、汚れた作業着のままだ。財布とスマートフォンしか持っていない。
「あの……もう、発車してますけど……」
「いいんだ。俺も向こうまで乗っていくから」
「向こうまで……って、え? 仕事は?」
「月曜までに帰ればいい」
「はあ……」
 それでもまだ、南雲には事情が呑みこめないらしい。



 南雲の顔が、急に泣き笑いのようになった。
「そのセリフ……自分で言われてみると、けっこう堪えますね」


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