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松浦 巽◆お試し読み

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記憶の杜

BL短編小説。ホラーミステリ風。
pixivに別バージョンのお試し読みあり
「あのとき戻ってきたのは、おまえだけだった」
子供のころからくりかえし見ている同じ夢。それは、森の中で恐ろしい鬼に追われ、逃げまどう悪夢。
その夢が、過去の神隠し事件に関係していると知った祐一は、失われた記憶と真相を求めて現地へと向かう。そこで1人の青年と出会うが……?
※おまけ掌編「鬼の睦言」も収録。



▼お試し読み▼


 子供のころ、神隠しにあった――そうだ。



 ぞくりとした瞬間、背後で物音が響き、文字どおり飛びあがった。
 ぎし、と木のきしむ音。社殿の傾いた扉が激しく揺れ、みしみしと壊れそうな音を立てながら、ゆっくり開きはじめる。
 たちまちのうちに口が渇き、腋の下をいやな汗が流れた。
 逃げなければ。そう思ったが、金縛りにあったように手足が動かない。
 そうしている間にも、扉はじりじりと開いていく。
 奥の暗がりから響いてきた声が、心臓をわしづかみにした。
「――おかえり」



「神隠しか」
 男は遠い目をして言った。
「あのとき戻ってきたのは、おまえだけだった」
「覚えてるんですか?」
「もちろん。当時は大騒ぎだった」
 すると、記事にはならなかったが、地元では大事件だったのか。
「僕のほかにも、子供が何人か行方不明になったとか」
「関連があるのかどうかは、わからないけどな。この町では、子供がいなくなれば、何でもかんでも神隠しだと言われる。実際には、事故かもしれないし、誘拐かもしれない。でもどれも、神隠しなんだ」



 まるで他人の話を聞いているように、実感がなかった。経緯を知っても、何一つぴんとこない。発見されたあとの騒ぎも、記憶からすっぽり抜けおちているようだ。目の前の男がだれなのかも、あいかわらず思い出せない。
 急にあたりが暗くなったと思ったら、大粒の雨が降りだした。
「こっちへ」
 男に手を引かれて、崩れかけた社殿の中に入る。
 その瞬間、前にもこれと同じことがあったような気がした。だがその感覚は、捕まえる前にするりと逃げ、男の熱い手のひらの感触だけが残った。



 まっすぐだ。まっすぐ進めばいい。
 昼のうちに神社から見た光景を思い出しながら、ゆっくり足を運ぶ。
 もう少し。あとちょっとで、道に出られるはずだ。
 爪先に何かがあたって足をとめた。恐るおそる手を伸ばすと、ざらりと乾いたものに触れた。太い木の幹だ。
 携帯電話で照らしてみたが、近くに道はなかった。
 暗闇の中で方向を誤ったのだ。



 怖いのは鬼ではない。
 この杜だ。
 それなのに、杜の中を、わけもわからず逃げまどっている。
 狭いはずの杜から、走っても走っても抜けられず、進むほどに広がっていくように思われた。黒い木々が蜘蛛の巣のように枝を張りめぐらし、自分をからめとって呑みこもうとしているような気がした。
 そうだ、ここは神隠しの杜。
 迷いこんだら、決して逃れられない。



「河西の兄ちゃん!」


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