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松浦 巽◆お試し読み

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居候は野蛮な王様

中編小説。学者とサラリーマンの怒鳴り愛コメディ。
pixivに別バージョンのお試し読みあり
平凡なサラリーマン、大宮建(おおみや・たける)のアパートに、突然転がりこんできた考古学者、日下静司(くさか・せいじ)。
学者のイメージとは程遠い熊のような大男で、家にいれば「飯・風呂・酒」と建を顎で使い、外へ行けば泥酔して警察に保護され……と大大大迷惑。しかもゲイ。
そんな日下に怒り心頭ながらも、建はついついほだされて……?
熊学者とリーマンの怒鳴り愛最終決戦は、なんとジャングル!


▼お試し読み▼


 玄関ドアを開けると、そこには熊が立っていた。
「お世話になります。日下です」
 呆然と見上げる建に向かって、熊は野太い声でそう言った。

 はじまりは、真夜中にかかってきた姉からの電話だった。
『旦那の親戚が火事で焼け出されちゃって、たいへんなのよ。一、二週間でいいから、あんたのうちに泊めてもらえない?』
「えっ? なんで俺のうち?」
『その人、聖応大学の準教授なの。そこのすぐ近くでしょ。銀行やカードの手続きがすむまでお金も使えないし、ホテルやウィークリーマンションなんかに泊まったら、立て替えの金額も馬鹿にならないもの。あんたなら独り身だし、ぼろくても2DKだし、なんとかなるでしょ?』
「ちょ、ちょっと、急にそんなこと言われても――」
『もちろんタダとは言わないわ。お金がおろせるようになりしだい、それ相応のお礼はしてくれるはずよ。食費なんかの必要経費もちゃんと払うし、家賃や光熱費も日割りで折半してくれるって。ねえ、ほかならぬ血を分けた姉の頼みよ。まさか断ったりしないわよね?』



「ただい――うわっ!?」
 帰宅して玄関に入ったとたん、建は何かに足を取られて尻餅をついた。
 三和土に新聞の折り込みちらしが散乱している。そこにいっしょくたに脱ぎ捨てられ、片方が裏返しになった巨大な革靴。上がってすぐのキッチンの床には、上着、ズボン、シャツ、靴下……と、衣類の抜け殻が点々と浴室まで続いている。
 浴室はすでに使用後で、手前の部屋をのぞくと、バスローブ姿の日下がソファの上で新聞を読みながらくつろいでいた。
「あの、日下さん……」
「んあ?」
 声をかけると、日下は顔も上げずに喉の奥で唸った。
「そこの服は――」
「ああ、洗っといてくれ」
「――は?」
「おまえさんのといっしょでいいから、洗っといてくれ」
 言われた言葉が信じられず、建は絶句した。さらにそこへ、追い討ちの一言が投げられる。
「飯はまだか? 腹が減った」
 ――な……んだ……と……?



 携帯電話の着メロに叩き起こされたのは、目を閉じた一瞬後だった。
 ちっとも眠った気がしなかったが、いつのまにか三時間が経過している。
 相手は知らない番号だ。半分寝ぼけたまま出てみると、聞き慣れない声がほっとした口調でこう言った。
『あ、オオミヤタケルさんの携帯電話ですか? こちら××派出所の者ですが――』
 いっぺんに目が覚めた。
「警察? 何かあったんですか?」
『ああ、えーと……クサカセイジさんってご存じですかね?』
「――うちの居候です……」
 どういうことか尋ねるまでもなかった。電話口の向こうから、ろれつの回らない陽気な大声が聞こえてくる。
 とるものもとりあえずタクシーで駆けつけると、泥酔した日下は騒ぎ疲れて沈没しかかっていた。
「いや、別に、喧嘩をしたとか犯罪にかかわったというわけじゃないんですがね。ひどく酔っ払って車道をふらふら歩いていたんで、保護したしだいで」
「本当に、ご迷惑おかけしまして」
 平謝りに謝り、警察官たちに手伝ってもらってどうにかタクシーに押しこんだ。日下はもはや正体もなく、座らされたままの姿勢で気持ちよさそうにいびきをかいている。



 それでも少しは悪いと思ったのだろうか。その日を境に、日下は夕食を外ですませてくることが多くなり、帰りも建より遅くなったり、どこかで一泊してくることもあるようになった。
 といって、建の生活が少しでも楽になったかといえばそんなことはない。
 日下の分が必要ないといっても、自分の食事は用意するし、あいかわらず洗濯は押しつけられているし、家じゅう日下の私物でいっぱいだ。おまけに日下の帰宅時間がまちまちなので、真夜中に物音で目が覚めたり、突然夕食を要求されて慌てたりと、かえって前より迷惑度がアップした気がする。
 ――まったく、いてもいなくても面倒な。
 溜め息をつきながら夜の街へ買い物に出た建は、見覚えのある後ろ姿を見て思わず足をとめた。
 熊のような大男が、サラリーマン風の若い男と肩を並べ、人ごみを押し分けるようにして歩いていく。その足が歓楽街の方へ向かっているのに気づいて、建は急に好奇心をくすぐられた。
 ――あいつ、どこへ行くんだ?



 ――まいったな。
 やむをえず鍵を開けて社屋に入ったが、水位はどんどん上がってくる。しまいには一階が浸水したので、二階まで避難し、ここで一夜を明かすことを覚悟して、日下に電話をかけた。
「――というわけで、今夜は会社に泊まります。朝になれば、たぶん帰れるんじゃないかと」
『そうか。寝る場所はあるのか?』
「休憩室に毛布や座布団があるので、それでなんとか」
『風邪ひくなよ』
 珍しくいたわりの言葉をもらって、なんだかじんとした。同時に、いまは自分一人しかいないという実感が湧いて、急に心細くなる。
 電話を切って休憩室へ移動し、間に合わせの寝床を作って潜りこんだ。
 外は大荒れで、暴風雨に叩きつけられた窓がいまにも壊れそうな音を立てている。ホラー映画ならここで殺人鬼でも登場しそうな、ぞっとしない雰囲気だ。
 神経が高ぶって、思うように寝つけない。うとうとしてははっと目を覚まし、ようやく眠れそうだと思ったそのとき、携帯電話の着メロが鳴った。
『おい、どの部屋だ?』
 日下だった。
「どの部屋? って、どういう意味です?」
『会社の前まで来てる』
「へっ?」



 ろうそくの明かりで食べる鍋は、キャンプでもしているような雰囲気で、いつもの食事よりもおいしく、妙にわくわくする。山ほどあった具材は見るみる二人の胃袋の中に消え、最後は汁までなくなった。
「ふー、食った食った」
 げっぷをしながら、日下がまじめに後片づけをし、どさりとソファに腰を下ろす。カーペットに座っていた建のすぐ横に足が投げ出され、なぜかどきりとした建は慌てて視線をそらした。
 いつもなら、ここで奥の部屋に引き揚げて布団に潜りこむところだ。だが今日の建はそんな気になれず、ぐずぐずとその場にとどまっていた。
「暖房がないと、やっぱ寒いな」
 日下がつぶやき、立ち上がって何かを探しはじめた。戻ってくると、さりげなく建の隣に座りこみ、取ってきた掛け布団で二人の体を覆った。
「冬の夜は、猫を湯たんぽ代わりにするのがたまらないんだよなあ」
「猫ですか」
「うん、猫だ」
 密着はしていないが、二人の体温で布団の中が暖められてくるのがわかる。かえって外気が冷たく感じられ、二人はどちらからともなく近づいて、肩を寄せ合った。
 伝わってくる温もりが心地よい。



「フィールドワークで、しばらくコスタリカに行くことになった」
「コスタリカ? ……ってどこですか?」
「中米にある国だ。そこで、先史時代の遺跡が新たに発見されたというんで、発掘の手伝いに行く」
「中米? どれくらいの期間?」
「さあ……三か月か、半年か……もしかしたら一年ぐらいになるかも」
「大学はどうするんですか?」
「代理の教官を頼んだから大丈夫だ」
「渡航費用とか、滞在費は?」
「指名されて招かれたから、最低限は向こうで出してくれる」
 何を言っても、日下を思いとどまらせるような口実は見つかりそうにない。
「ベタの世話を頼む」
「わかりました」
 うなずいて建は、思わず涙ぐみそうになった。気分はまるで、出征する夫を見送る妻のようだ。
 ――妻? 何考えてるんだ、俺は。



 悶々としたまま数か月がたち、春の気配が感じられるようになったころ、コスタリカから絵葉書が届いた。
《今月末に帰国する》
 電報かと思うようなぶっきらぼうな短文が、いかにも日下らしい。裏面は、ケツァールという美しい鳥の写真だった。
 ――とうとう帰ってくる……!
 建は期待と不安の狭間で揺れ動いた。
 いや、不安はあるが、やはりうれしい。やっと日下に会える。何も言わなくても、会えるだけでいい。早く会いたい。
 だがその夜、食事をしながらテレビのニュース番組を見ていた建は、新しく現れたテロップに目が釘づけになった。


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