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Posted by 松浦巽 - 2013.05.31,Fri
短編小説。サラリーマン調教系。
※同人誌『支配者の論理』表題作
pixivに別バージョンのお試し読みあり
魔が差した。たった一度のその軽挙が、香坂の人生を変えた。
尊敬する上司のため、情報を盗もうとライバル部署に忍びこんだ香坂。ところがそれを、相手のボス・本間に見つかってしまう。
「ばらされたくなければ、私の犬になれ」
脅迫されて本間の傘下に移った香坂を待っていたのは、犬扱いされる屈辱的な調教の日々だった。
はたして本間の真意は……?


▼お試し読み▼


 篠原は、香坂の直属の上司で、隣にある《第一企画室》の室長だった。
 《第一企画室》と《第二企画室》は、ふだんは適当に割りふられた仕事を淡々とこなしていて、互いに干渉することはほとんどない。だが、公共機関や大企業相手の大きな仕事が入ってくると、社内コンペというかたちで競いあい、企画の優れたほうがその仕事を担当することになる。
 仕事上の実績は、当然、ボーナスの査定や昇進に響いてくる。仕事の質を向上させようという会社の方針で、それなりの効果は出ているようだったが、必要以上に部署間の対立をあおっているという側面もあった。
 とくに、このところ社内コンペで敗北を続けている《第一》の面々は、《第二》からあからさまに見下されて鬱憤がたまり、なかでも室長の篠原はかなり追いつめられていた。
 善人タイプの篠原は、有能で部下の受けもいいが、ビジネスマンとしての押しに欠けるきらいがある。
 対する《第二》の室長、本間鋭司は、自他ともに認める野心家で、目的のためなら手段を選ばない。自分たちの企画を通すために、賄賂を使ったり、圧力をかけたりということも平気でする男だ。
 そもそも、本間は現社長の甥にあたり、それだけでも充分に優遇される立場だった。
 そんな不利な状況でも、篠原はこれまで自分を曲げたことがなかった。あくまで公明正大さを貫こうとするその姿勢に、香坂は共鳴し、《第二》に対する反感も手伝って、篠原にほとんど心酔しているような状態だった。
 その篠原が、酔った勢いでか、初めて弱音を口にしたのだ。



 終業時間になると、香坂はまっすぐ本間の席へ飛んでいって詰めよった。
「室長、お話したいことがあるのですが」
 下を向いて書類を見ていた本間は、じろりと見上げ、ついで薄く笑みを浮かべた。
「ここでは言えないような話なのか?」
「少々長くなると思いますので」
 負けずに食いさがると、本間は書類をファイルにしまって立ちあがった。
「では場所を変えよう。来たまえ」
 連れていかれたのは、ほかの階にある小会議室だった。役員会議などに使われる部屋で、ふだんはめったに人の出入りがない。
「さて、どういう用件かな?」
 楕円形の大テーブルの上座にある椅子を引き、横柄な態度で腰を下ろすと、本間はからかうように尋ねてきた。
 本間のしぐさの一つひとつから、自分の弱い立場を思いしらされる。
 香坂はテーブルの横に立ったまま、屈辱感を味わいながら口を開いた。
「みんなに私のことを、《第一》のホープだったとおっしゃったそうですね。いったいどういうつもりなんですか」



「内容がよくても、アピールが弱くては話にならない。ひとことで相手を唸らせるコピーを考えろ」
 ほかのスタッフの前でも、かまわず大声で叱咤される。哀れむような視線が向けられるが、以前の対抗意識まるだしの視線に比べれば、まだましだった。
 それに、本間の指摘はいちいち的を射ている。言われたことをふまえて修正すれば、最初の企画よりもまちがいなく数段よくなり、クライアントの反応もよかった。
 悔しいが、企画室長としての本間には脱帽せざるをえない。
 気がつけば香坂は、毎日の勤務にはりあいを感じるようになっていた。心なしか、視野が広くなり頭の回転が速くなったように感じる。これまで三時間かかっていた仕事が一時間でこなせるようになり、本間から叱責される頻度もじょじょに減った。
 全員でわきあいあいやっていた、だが効率がいいとはいえなかった《第一》時代が、いまとなっては夢のようだ。ここで本間にしごかれていると、自分がこれまでまともに仕事をしていたのかどうかさえ、疑わしく思えてしまう。



「篠原室長、お久しぶりです」
 少し後ろめたさを感じながら、香坂は平静を装って頭を下げた。
「君の企画は、中身があって、クライアントの評判もいいと、営業の人間から聞いたよ。本間くんも、さぞ鼻が高いことだろう」
 篠原に他意はないのだろうが、香坂はちくりと良心の呵責を覚えた。もともと篠原の名誉を守るためだったとはいえ、彼のライバルである本間のもとで実績を上げている自分をかえりみると、篠原に対して申し訳ない気持ちになる。
「ずいぶん印象が変わったね」
 篠原といっしょにいた広尾も言った。
「なんというか、貫禄が出てきて、いかにもやり手のビジネスマンという雰囲気だ。僕も負けられないな」
 温かで穏やかな物言い。懐かしい《第一》の空気に触れて、香坂の胸につかのま郷愁の念が宿った。
 だがその甘酸っぱい気持ちは、本間の冷淡なひとことでかきけされた。
「香坂、なにをぐずぐずしている。行くぞ」


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