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松浦 巽◆お試し読み

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しのびごと

民俗学ミステリ風長編。全体的にコメディ。緊縛H山盛り。
pixivに別バージョンのお試し読みあり
秘祭の取材のため、山奥の寒村《戸首村(とがしらむら)》を訪れた、小説家の由利と民俗学者の卵・小此木。彼らを待っていたのは、男だけによる淫靡で残酷な儀式だった――。

▼お試し読み▼


「お二人が並んでると、なんだか大正ロマンって感じですねえ」
 間の抜けた山田二郎の感想に、由利宗彦と小此木武志は、それぞれいやそうな顔をして互いを見た。
「俺とこいつをいっしょにすんな」
「僕と彼をいっしょにしないでください」
 間髪を入れず、ほとんど同時に口を開く。
「いやあ、だって」
 二人の不興を気にするふうもなく、山田はのんびりした口調で言った。
「お二人とも、服装が古風というか粋というか、そこだけ見てると、タイムマシンで時代をさかのぼったような錯覚に陥りますよ」
 北陸の海岸沿いを走る特急列車の中。着流しに羽織という和服姿の由利と、英国ふうの三つ揃いスーツを着た小此木は、ともに二四歳という若さもあって、周囲から非常に浮いて見える。
 二人は、服装だけでなく風貌も対照的だった。中肉中背の由利は、やや彫りの深い顔立ちで、無造作に流した髪と健康的な肌色に、かえって和装が似合っている。小此木のほうは、縦にひょろりと長く、色白で、雛人形のような上品な顔立ちが、貴公子然とした雰囲気をかもしだしている。



「いや、じつは村人全員が安曇姓でして」
 村長が答えた。
「しかし、なにぶん狭い村で、人の出入りもないものですから、さかのぼればほとんどの者がどこかで血がつながっていると思います。親戚といっても間違いではないでしょう」
 それを聞いて由利は、改めて村のようすを眺めてみた。
 点在する藁葺き屋根の古風な日本家屋。無秩序に曲がりくねった村道の左右に、さほど収穫があるとも思えない田畑が広がり、野良仕事をする村人の姿がまばらに見える。しきりに吠えている犬の声。何時を告げようとしているのか、雄鶏の甲高い声も聞こえる。
 なんとなく違和感を覚えて目を凝らしているうちに、子どもの気配がどこにもないことに気づいた。姿が見えないばかりでなく、声も聞こえない。若者はほとんど出ていってしまって、残ったのは老人ばかりの、典型的な過疎の村だと思われた。
「…………! ……じゃ! ……の……じゃ……!」
 ふいにだれかの喚き声が耳に届き、そちらに目をやると、異様な人物がよろよろとこちらに向かってくるのが見えた。
 長い髪を振りみだし、薄桃色の大きな布を肩にかけたほかは、なにも身につけていない。薄桃色の布は、どうやら女ものの長襦袢のようだったが、着ている本人は壮年のたくましい男だった。
「おう、おう、おう、おう! ……おいでなされた! おいでなされた! 一四年ぶりじゃ、一四年ぶりのお越しじゃ! ……トガシラさまが、やっとお越しなされた……!」
 男は、焦点の合わない目を血走らせてそう言いながら、三人の前までたどりつくと、額づくように倒れこみ、そのまま由利の片足にすがりついた。
「……あ、あ、ありがたや、トガシラさま……」
 驚きのあまり、由利は硬直したまま微動だにできない。



「祭の日には、必ず若い男が一人死ぬ――か。穏やかじゃねえなあ」
「そうだな」
 小此木が前を向いたまま答えた。
「単なる迷信か、それ以上のものかが問題だけどね」
「なんだよ、そりゃどういう意味だ?」
「偶然だれかが死んだのを祟り神のせいにしてるだけなら、気にすることはないと思うけど。今のあの男の口ぶりは、もっと確定的な感じだった。まるで決められたことみたいに――そう、たとえば人身御供とか、さ」
 由利と山田は思わず顔を見合わせた。
「い、いやですねえ、小此木さん。脅かさないでくださいよ。若い男っていったら、この村には今、私たちしかいないんですから」
「脅しじゃありませんよ。橋や城の完成を祈って、生きた人間を水に沈めたり土に埋めたりということは、昔はじっさいにおこなわれていたらしいですからね。……まあ、今やったら犯罪ですけど」
「そ、そうですよぉ。いくらなんでもこの時代、それはないでしょう。ねえ、由利先生?」
 山田は同意を求めて振りむいたが、由利は腕組みしてしかめっつらをしていた。
「ううむ、ありえない話じゃねえぞ。なにしろ、宅配便も電話も電気もない村だ。なにがおこなわれていてもおかしくねえ」
「――しゅ、取材やめて、さっさと帰りますか?」
 ところが由利と小此木は声をそろえて言った。
「馬鹿言え!」
「とんでもない!」
「そんなおもしろいもん、見逃してたまるか。最後まで見ていくに決まってるだろッ」
「そうですよ。もしそれが本当なら、民俗学上の大発見です。こんなおいしい話を前に逃げかえるなんてもったいない。たとえ殺されても、僕は帰りませんよっ」
「そんなこと言って、本当に殺されちゃったらどうするんですかぁ~~~っ!」
 山田がとりすがっても、二人はもはや聞く耳を持たなかった。
「そうと決まったら、調査だ、取材だ!」
「由利、まずは社へ行こう!」
「そうだなッ、ご神体を見ればなにかわかるかも――」
 われさきに走りだす由利と小此木。ひと足遅れて、山田もしかたなくあとを追った。
「由利先生~、小此木さ~ん、待ってくださいよ~う!」



「祭のことでご相談がございまして」
 伸之がにこにこ愛想笑いを浮かべながら切りだした。
「じつは、祭の際に、トガシラさまの役をする者を一人立てるのですが、本来これは二四歳以下の若者がする決まりになっております。あいにく、村にはそれに該当する者がおりませんので、今年はその決まりは無視しようかと思っておりました。ですが、お客さまのうちお二人は、聞けばちょうど二四歳。祭の取材に来られたことでもありますし、せっかくですから、お客さまにトガシラさまの役をやっていただけないかという話になりまして」
 いよいよ来たな、と、三人は互いに目配せした。
「はあ、それは……むしろ願ったりかなったりですが、部外者の僕たちが、そんな大事な役をいただいても大丈夫なんでしょうか?」
 小此木が、なにくわぬ顔をして質問する。
「はい、それはもう。トガシラさまの役といっても、することはそれほど難しくはありません。ただ二、三の決まりごとさえ守っていただければいいのです。いかがでしょう、引きうけてはいただけませんか?」



 村全体がひっそりと静まりかえり、咳一つ聞こえない。だが、闇の中には、いつもより大勢の人の気配があり、はりつめた空気が充満しているのを感じる。
 大きなルールは二つだった。かがり火の輪から外に出てはいけないことと、祭のあいだ口をきいてはいけないことだ。全員がこの二つを守ったうえで、トガシラさまである由利は自由に逃げまわり、ほかの男たちは由利を目的の場所へと追いたてる。
 社のある東の方で、大きな炎が燃えあがって左右に揺れた。開始の合図だ。
 どう動こうかと由利が迷っていると、ふいに右の方でなにかが動き、斜め後ろの地面が鈍い音を立てた。
 小石が飛びちって右足にあたる。
 振りむくと、かがり火の明かりに照らされて、ぼうっと赤く人の顔のようなものが浮かびあがっており、由利はあやうく声を上げるところだった。
 赤い顔は、稚拙な白木づくりの面だった。荒削りで、鼻も口も定かでない楕円の中ほどに、くりぬかれた二つの目だけが黒々としている。面をつけた人物は、黒っぽい着物を身につけ、両手で持った長い棒を斜め下に向けていた。どうやら、その棒で由利の足もとの地面を叩いたらしい。
 由利はごくりと唾を飲みこんだ。
 風体も不気味だが、今の一撃にはかなりの力がこめられていたような気がする。あたったら間違いなくただではすまない。伸之老人は、由利に怪我をさせないよう注意したと言っていたが、注意された側がじっさいに従うかどうかはしれたものではない。


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