Posted by 松浦巽 - 2013.02.05,Tue
▼お試し読み▼
「わかってるって。おまえ、俺に気があるんだろ?」
悠人はぎくりとして体をこわばらせた。恐る恐る目を向けると、賢治が底意地の悪い笑みを浮かべて見つめていた。
「なんでそれを……」
「孝弘(たかひろ)にきいた。あいつ、友達思いだな。おまえとつきあってやってくれって、わざわざ言ってきたんだぜ?」
――あのバカ。
悠人は内心舌打ちした。気のいいやつだが、デリカシーや機転というものに欠ける。そもそも自分は、賢治のことを好きだとは言ったが、つきあいたいとは一言も言っていない。
「こんどおまえのこと、好きなだけ抱いてやるよ。だから今回は俺の顔を立てると思って――な?」
「……ホントに?」
「ああ、ホントだ」
嘘に決まっている。賢治はそういう男だ。調子のいいことを言って、みんなを食いものにしながら、でかい顔をしてのさばっている。
わかってはいるが、それでも嫌いになれない。
「――いいよ、わかった」
悠人は目を伏せて言った。
抱いてやるという餌に釣られたわけではない。賢治の頼みを断われなかっただけだ。
一目見て、悠人はほっとした。やくざとは系統が違うようだし、賢治の言ったとおりルックスはいい。
「俺は隆一。おまえは?」
部屋に入って施錠すると、男はようやく口を開いた。
「……悠人」
「悠人か、よろしく。――シャワー浴びるか? 俺はさっきすませた」
投げられたバスタオルを受け取って、悠人は示されたバスルームに入った。広いバスルームに圧倒されながら、そそくさと体を洗い、バスタオルを腰に巻いて外へ出る。
ベッドルームもむやみに広かった。窓際にキングサイズのベッドがあり、枕元には酒類の載ったワゴンがある。まるで、しゃれたホテルの一室だ。
こんなところに住めるというのは、大金持ちの御曹司か何かなのだろうか。
「痕が残らなきゃ、何をしてもいいって言われたぜ?」
悠人はすぐには答えられなかった。賢治の軽薄な笑いが目に浮かぶ。
何か言おうと口を開きかけたが、隆一のほうが早かった。
「おまえ、賢治にはめられたな?」
「――そうかも」
「なんて言われたんだ」
「だれか紹介してくれって、頼まれたとか」
「ありえねぇ」
隆一は忌々しそうに舌打ちした。
入口の方にざわめきが走り、賢治が入ってきたのがわかった。いつものように、取り巻きを数名引き連れている。
賢治はすぐ悠人に気付き、媚びるような笑みを浮かべて近付いてきた。
「よう、悠人。こないだは悪かったな」
「そのことはもういいよ」
賢治は悠人の耳元に顔を寄せ、周りに聞こえないように囁いた。
「抱いてやる時間はないけど、キスぐらいしてやろうか?」
「だから、それはもういいって」
悠人は賢治をよけながら言った。
「わかってるって。おまえ、俺に気があるんだろ?」
悠人はぎくりとして体をこわばらせた。恐る恐る目を向けると、賢治が底意地の悪い笑みを浮かべて見つめていた。
「なんでそれを……」
「孝弘(たかひろ)にきいた。あいつ、友達思いだな。おまえとつきあってやってくれって、わざわざ言ってきたんだぜ?」
――あのバカ。
悠人は内心舌打ちした。気のいいやつだが、デリカシーや機転というものに欠ける。そもそも自分は、賢治のことを好きだとは言ったが、つきあいたいとは一言も言っていない。
「こんどおまえのこと、好きなだけ抱いてやるよ。だから今回は俺の顔を立てると思って――な?」
「……ホントに?」
「ああ、ホントだ」
嘘に決まっている。賢治はそういう男だ。調子のいいことを言って、みんなを食いものにしながら、でかい顔をしてのさばっている。
わかってはいるが、それでも嫌いになれない。
「――いいよ、わかった」
悠人は目を伏せて言った。
抱いてやるという餌に釣られたわけではない。賢治の頼みを断われなかっただけだ。
一目見て、悠人はほっとした。やくざとは系統が違うようだし、賢治の言ったとおりルックスはいい。
「俺は隆一。おまえは?」
部屋に入って施錠すると、男はようやく口を開いた。
「……悠人」
「悠人か、よろしく。――シャワー浴びるか? 俺はさっきすませた」
投げられたバスタオルを受け取って、悠人は示されたバスルームに入った。広いバスルームに圧倒されながら、そそくさと体を洗い、バスタオルを腰に巻いて外へ出る。
ベッドルームもむやみに広かった。窓際にキングサイズのベッドがあり、枕元には酒類の載ったワゴンがある。まるで、しゃれたホテルの一室だ。
こんなところに住めるというのは、大金持ちの御曹司か何かなのだろうか。
「痕が残らなきゃ、何をしてもいいって言われたぜ?」
悠人はすぐには答えられなかった。賢治の軽薄な笑いが目に浮かぶ。
何か言おうと口を開きかけたが、隆一のほうが早かった。
「おまえ、賢治にはめられたな?」
「――そうかも」
「なんて言われたんだ」
「だれか紹介してくれって、頼まれたとか」
「ありえねぇ」
隆一は忌々しそうに舌打ちした。
入口の方にざわめきが走り、賢治が入ってきたのがわかった。いつものように、取り巻きを数名引き連れている。
賢治はすぐ悠人に気付き、媚びるような笑みを浮かべて近付いてきた。
「よう、悠人。こないだは悪かったな」
「そのことはもういいよ」
賢治は悠人の耳元に顔を寄せ、周りに聞こえないように囁いた。
「抱いてやる時間はないけど、キスぐらいしてやろうか?」
「だから、それはもういいって」
悠人は賢治をよけながら言った。
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