Posted by 松浦巽 - 2013.02.02,Sat
探偵もの長編。男らしいビッチ受け。
※pixivに別バージョンのお試し読みあり
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車のトランクに見知らぬ死体が! 想いを寄せる刑事・須賀からも容疑者扱いされ、探偵の羽村は自分で犯人をつきとめようとするが――?
▼お試し読み▼
車のトランクを開けたとたん、羽村雄成は目を疑った。
見覚えのないベージュ色の毛布の塊。トランクルームのほとんどを占めているそれは、どう見てもあるものを連想させる不吉な形をしている。
羽村は恐るおそる毛布の端をめくった。
下から現れたのは、予想どおり人間の体だった。
「だから、やったのは俺じゃないって言ってるでしょう」
警察署の取調室で、羽村はいらだって声を荒らげた。
自分の車のトランクに死体が入っている、と通報すると、駆けつけた警察官たちに「ちょっと署でお話を」と同行を求められ、それきりもう何時間も引きとめられている。
氏名、年齢、住所、職業……と、基本的な身上にはじまって、死体発見のいきさつを飽きるほど何度も説明させられた。あまりしつこいので「まるで俺を疑ってるみたいですね」と皮肉を言うと、「そのとおりですよ」とあっさり返された。
「ゆ・う・せ~い♪」
玄関口に入ったとたん、背後から抱きつかれて、羽村は体をこわばらせた。
どすのきいた太い声。だが、振りかえって目に入るのは、線の細いアイドルタレントばりの美青年だ。
「もう、あいかわらず憎らしいほど男前ねっ。先にミスターSに貸さなきゃならないと思うと、悔しいわっ」
羽村は、井上に会うといつも、視覚と聴覚の情報がかみあわず、軽い混乱状態に陥る。
見かけは美女で声は男というニューハーフなら少なくないが、井上のギャップはその比ではない。
三〇歳はすぎているという話なのに、へたをすると可憐な少年にも見える化け物のような外見。それなのに、声は、単独で聞けばゴリラなみの大男を想像してしまうような、地を這うバス。おまけに口調は完璧なオネエ言葉だ。
羽村が固まって反応できないでいるうちに、井上は彼を奥の方の部屋に連れこんだ。
「殺人事件の容疑者って、ホントなのね。ミスターSが、あなたに尾行がついてるから、別の部屋に身代わりを用意しとけって言ってたわ。アリバイ工作はばっちりだから、気兼ねなくサービスしてきてちょうだい。――それにしても、こうまでしてあの人に危ない橋を渡らせるなんて、あなたもつくづく愛されてるわよねえ」
「ふつうに愛されてるだけなら、ありがたいんだがな」
服を脱ぎながら、羽村はむっつり答えた。
ミスターSというのは、ミスター・サディストの略だ。どこで羽村のことを知ったのか、かつて情報料の代わりに羽村の体を貸せといって接触をはかってきた。以来こちらも腐れ縁で、互いにときどき利用しあう間柄だ。
「おまえが犯人だとは思っていない」
須賀の落ちついた口ぶりが、羽村の癇にさわった。
「はん! じゃあなんで《無頼》のことをバラしたりした? あの状況で俺がゲイだとわかれば、俺が疑われるに決まってるだろう」
「調べればいずれわかることだ。隠していてよけいな勘ぐりをされるより、先に全部しゃべっておいたほうが、あとあとの印象がいい」
「親切ごかしに人のプライバシーをほじくりだして、自分は安全圏にいるってわけだ」
羽村はいやみを叩きつけたが、須賀は顔色を変えなかった。
「俺がゲイだというのは、警察内部では公然の秘密だ。おまえと関係があったことも、上に話してある」
羽村はあんぐり口を開け、崩れるように背中から壁にもたれかかった。
「――あんた、馬鹿じゃねえの? そんなことしたら、いろいろマズいだろう?」
「なにも悪いことはしていない」
須賀はきっぱり言った。
「重要参考人と寝たことがあるからといって、捜査に影響が出るようなことはしないし、ゲイだから出世させないといわれても、それは俺の罪じゃない」
羽村は深い溜息をつき、苦笑して須賀の顔を見つめた。
「やれやれ。あんたのそういうところ、けっこう好きなんだよな」
須賀の顔がたちまち真っ赤に染まった。
言葉よりも雄弁な沈黙がおりる。
羽村は左手でゆっくりサングラスをはずした。右手を前へ伸ばすと、須賀はうろたえたように視線を泳がせたが、よけようとはしなかった。ネクタイをつかんで引きよせる。鋼のような体が従順に倒れこんできて、羽村の両脇に手をついてとまった。
「須賀――」
間近に迫った武骨な顔に向かって、濡れた声で名前を呼ぶ。
返事をする暇もなく後ろから羽交い締めにされ、鳩尾に二、三発入れられる。
胸倉をつかまれ、ドスのきいた声で詰問された。
「ブツはどこへやった」
「……ブツ?」
羽村は痛みに顔をしかめながら訊きかえした。
相手は三人。羽村を羽交い締めにしている大男と、殴りつけてきた痩身の男、それに尋問係の小男だ。いずれも、たいしたことのない三下らしい。
「てめェがちょろまかしたことはわかってるんだ。さっさとありかを言え」
「覚えがない。なんのことだ」
羽村は正直に答えたが、相手はもちろん信用しなかった。
「しらばっくれても無駄だ。痛い目見たくなかったら、すなおに吐くんだな」
「知らないものは答えようがないぜ」
痩身の男がまた殴ってきた。こんどは顎だ。やんわりとだったが、骨に響き、頭がくらくらした。
「どうしても答えないっていうなら、仕方がねえ。ちょっと顔を貸してもらおうか」
小男の合図で、羽村を押さえていた大男が体勢を変える。
そのすきをついて、羽村は大男の足を払い、巧みに拘束から抜けだした。大男の股間に強烈な蹴りを見舞いながら、同時に小男の襟首をつかみ、鳩尾を拳で容赦なくえぐる。痩身の男が突進してきたのを回し蹴りで牽制し、向きなおって身構えた。
相手はボクシングの心得があるらしく、すきのない構えで間合いをとってきた。睨みあったままぐるぐる回る。いきなり頬すれすれにパンチをくらって、羽村はたたらを踏んだ。
「でかいなりして、たいしたことねえな」
好戦的に目を光らせて、男が嘲った。
「そういうことは、俺を倒してから言いな」
羽村は言いかえし、さりげない動作で男の顎を狙った。きれいに決まって、男が尻餅をつく。
「さっきの礼だ」
男がしぶとく立ちあがってきたタイミングを狙って、こんどは腹部に二発くらわせた。
「これもさっきの礼」
よろけて咳きこむ男をひきずりたおし、馬乗りになって襟首を絞めあげた。
「なんで俺を襲った。ブツってなんのことだ?」
「それで、これはほんのシルシなんだが……」
羽村は一瞬迷ったが、結局黙って受けとることにした。ここしばらくまともに仕事をしていなかったので、現金は喉から手が出るほど欲しい。
「ありがたく頂戴させていただきます」
「うむ。それともう一つ、これもほんの気持ちなんだが――」
吉川が合図すると、玄関のドアが開いて、後ろ手に縛られた若い男がひきたてられてきた。どんと突きとばされて、羽村の足もとに倒れこむ。
「あんた、そっちの趣味があるって聞いてな。こいつは、うちのシマで勝手にウリやってた馬鹿だ。ちょいとヤキを入れてやろうと思ってたんだが、ちょうどいい。煮るなり焼くなり、好きにしてやってくれ」
「え、あの――?」
羽村が唖然としているあいだに、吉川はさっと腰を上げると、子分をひきつれてまたたくまに帰ってしまった。
下を見ると、男は倒れたままの姿勢でぶるぶる震えている。羽村は舌打ちし、手首を縛っていたロープをほどいてやると、無愛想に言った。
「おい、あんた。もういいからとっとと帰りな」
男はこわごわ顔を上げた。ウリをやっていたというだけあって、なかなか整った顔立ちをしている。髪はスポーツ刈りで、体格はややマッチョ。見るからに体育会系だ。
「で、でも……なにもしないで帰ったら、また捕まってもっとひどい目にあわされます」
「ちゃんとご奉仕してきたって、報告すりゃいいだろ」
「あの人たち、ここを見張ってるって言ってました。すぐに帰ったりしたら、嘘がバレちゃいます」
「じゃあ、そこで茶でも飲んで、時間つぶしていけ」
「あの……」
男は、怯えた小動物のような目で羽村を見上げて言った。
「ゲイって本当なんですか? よかったら、その……本当に奉仕させてください。僕、フェラうまいって言われます。本番もオッケーです」
「悪いけど、俺はネコなんだよ」
「ぼ、僕、タチ役もできます」
車のトランクを開けたとたん、羽村雄成は目を疑った。
見覚えのないベージュ色の毛布の塊。トランクルームのほとんどを占めているそれは、どう見てもあるものを連想させる不吉な形をしている。
羽村は恐るおそる毛布の端をめくった。
下から現れたのは、予想どおり人間の体だった。
「だから、やったのは俺じゃないって言ってるでしょう」
警察署の取調室で、羽村はいらだって声を荒らげた。
自分の車のトランクに死体が入っている、と通報すると、駆けつけた警察官たちに「ちょっと署でお話を」と同行を求められ、それきりもう何時間も引きとめられている。
氏名、年齢、住所、職業……と、基本的な身上にはじまって、死体発見のいきさつを飽きるほど何度も説明させられた。あまりしつこいので「まるで俺を疑ってるみたいですね」と皮肉を言うと、「そのとおりですよ」とあっさり返された。
「ゆ・う・せ~い♪」
玄関口に入ったとたん、背後から抱きつかれて、羽村は体をこわばらせた。
どすのきいた太い声。だが、振りかえって目に入るのは、線の細いアイドルタレントばりの美青年だ。
「もう、あいかわらず憎らしいほど男前ねっ。先にミスターSに貸さなきゃならないと思うと、悔しいわっ」
羽村は、井上に会うといつも、視覚と聴覚の情報がかみあわず、軽い混乱状態に陥る。
見かけは美女で声は男というニューハーフなら少なくないが、井上のギャップはその比ではない。
三〇歳はすぎているという話なのに、へたをすると可憐な少年にも見える化け物のような外見。それなのに、声は、単独で聞けばゴリラなみの大男を想像してしまうような、地を這うバス。おまけに口調は完璧なオネエ言葉だ。
羽村が固まって反応できないでいるうちに、井上は彼を奥の方の部屋に連れこんだ。
「殺人事件の容疑者って、ホントなのね。ミスターSが、あなたに尾行がついてるから、別の部屋に身代わりを用意しとけって言ってたわ。アリバイ工作はばっちりだから、気兼ねなくサービスしてきてちょうだい。――それにしても、こうまでしてあの人に危ない橋を渡らせるなんて、あなたもつくづく愛されてるわよねえ」
「ふつうに愛されてるだけなら、ありがたいんだがな」
服を脱ぎながら、羽村はむっつり答えた。
ミスターSというのは、ミスター・サディストの略だ。どこで羽村のことを知ったのか、かつて情報料の代わりに羽村の体を貸せといって接触をはかってきた。以来こちらも腐れ縁で、互いにときどき利用しあう間柄だ。
「おまえが犯人だとは思っていない」
須賀の落ちついた口ぶりが、羽村の癇にさわった。
「はん! じゃあなんで《無頼》のことをバラしたりした? あの状況で俺がゲイだとわかれば、俺が疑われるに決まってるだろう」
「調べればいずれわかることだ。隠していてよけいな勘ぐりをされるより、先に全部しゃべっておいたほうが、あとあとの印象がいい」
「親切ごかしに人のプライバシーをほじくりだして、自分は安全圏にいるってわけだ」
羽村はいやみを叩きつけたが、須賀は顔色を変えなかった。
「俺がゲイだというのは、警察内部では公然の秘密だ。おまえと関係があったことも、上に話してある」
羽村はあんぐり口を開け、崩れるように背中から壁にもたれかかった。
「――あんた、馬鹿じゃねえの? そんなことしたら、いろいろマズいだろう?」
「なにも悪いことはしていない」
須賀はきっぱり言った。
「重要参考人と寝たことがあるからといって、捜査に影響が出るようなことはしないし、ゲイだから出世させないといわれても、それは俺の罪じゃない」
羽村は深い溜息をつき、苦笑して須賀の顔を見つめた。
「やれやれ。あんたのそういうところ、けっこう好きなんだよな」
須賀の顔がたちまち真っ赤に染まった。
言葉よりも雄弁な沈黙がおりる。
羽村は左手でゆっくりサングラスをはずした。右手を前へ伸ばすと、須賀はうろたえたように視線を泳がせたが、よけようとはしなかった。ネクタイをつかんで引きよせる。鋼のような体が従順に倒れこんできて、羽村の両脇に手をついてとまった。
「須賀――」
間近に迫った武骨な顔に向かって、濡れた声で名前を呼ぶ。
返事をする暇もなく後ろから羽交い締めにされ、鳩尾に二、三発入れられる。
胸倉をつかまれ、ドスのきいた声で詰問された。
「ブツはどこへやった」
「……ブツ?」
羽村は痛みに顔をしかめながら訊きかえした。
相手は三人。羽村を羽交い締めにしている大男と、殴りつけてきた痩身の男、それに尋問係の小男だ。いずれも、たいしたことのない三下らしい。
「てめェがちょろまかしたことはわかってるんだ。さっさとありかを言え」
「覚えがない。なんのことだ」
羽村は正直に答えたが、相手はもちろん信用しなかった。
「しらばっくれても無駄だ。痛い目見たくなかったら、すなおに吐くんだな」
「知らないものは答えようがないぜ」
痩身の男がまた殴ってきた。こんどは顎だ。やんわりとだったが、骨に響き、頭がくらくらした。
「どうしても答えないっていうなら、仕方がねえ。ちょっと顔を貸してもらおうか」
小男の合図で、羽村を押さえていた大男が体勢を変える。
そのすきをついて、羽村は大男の足を払い、巧みに拘束から抜けだした。大男の股間に強烈な蹴りを見舞いながら、同時に小男の襟首をつかみ、鳩尾を拳で容赦なくえぐる。痩身の男が突進してきたのを回し蹴りで牽制し、向きなおって身構えた。
相手はボクシングの心得があるらしく、すきのない構えで間合いをとってきた。睨みあったままぐるぐる回る。いきなり頬すれすれにパンチをくらって、羽村はたたらを踏んだ。
「でかいなりして、たいしたことねえな」
好戦的に目を光らせて、男が嘲った。
「そういうことは、俺を倒してから言いな」
羽村は言いかえし、さりげない動作で男の顎を狙った。きれいに決まって、男が尻餅をつく。
「さっきの礼だ」
男がしぶとく立ちあがってきたタイミングを狙って、こんどは腹部に二発くらわせた。
「これもさっきの礼」
よろけて咳きこむ男をひきずりたおし、馬乗りになって襟首を絞めあげた。
「なんで俺を襲った。ブツってなんのことだ?」
「それで、これはほんのシルシなんだが……」
羽村は一瞬迷ったが、結局黙って受けとることにした。ここしばらくまともに仕事をしていなかったので、現金は喉から手が出るほど欲しい。
「ありがたく頂戴させていただきます」
「うむ。それともう一つ、これもほんの気持ちなんだが――」
吉川が合図すると、玄関のドアが開いて、後ろ手に縛られた若い男がひきたてられてきた。どんと突きとばされて、羽村の足もとに倒れこむ。
「あんた、そっちの趣味があるって聞いてな。こいつは、うちのシマで勝手にウリやってた馬鹿だ。ちょいとヤキを入れてやろうと思ってたんだが、ちょうどいい。煮るなり焼くなり、好きにしてやってくれ」
「え、あの――?」
羽村が唖然としているあいだに、吉川はさっと腰を上げると、子分をひきつれてまたたくまに帰ってしまった。
下を見ると、男は倒れたままの姿勢でぶるぶる震えている。羽村は舌打ちし、手首を縛っていたロープをほどいてやると、無愛想に言った。
「おい、あんた。もういいからとっとと帰りな」
男はこわごわ顔を上げた。ウリをやっていたというだけあって、なかなか整った顔立ちをしている。髪はスポーツ刈りで、体格はややマッチョ。見るからに体育会系だ。
「で、でも……なにもしないで帰ったら、また捕まってもっとひどい目にあわされます」
「ちゃんとご奉仕してきたって、報告すりゃいいだろ」
「あの人たち、ここを見張ってるって言ってました。すぐに帰ったりしたら、嘘がバレちゃいます」
「じゃあ、そこで茶でも飲んで、時間つぶしていけ」
「あの……」
男は、怯えた小動物のような目で羽村を見上げて言った。
「ゲイって本当なんですか? よかったら、その……本当に奉仕させてください。僕、フェラうまいって言われます。本番もオッケーです」
「悪いけど、俺はネコなんだよ」
「ぼ、僕、タチ役もできます」
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