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松浦 巽◆お試し読み

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恥辱の代償(短編集)

ハードHがコンセプトの短編集。アンソロジーや雑誌に掲載されたものを再録。
pixivに別バージョンのお試し読みあり
「愛を騙る男」「この素晴らしき日々」「恥辱の代償」「さまよえる男たち」「危険な心理相談」「不幸の友人」の6編。


▼お試し読み▼


◆愛を騙る男・抜粋
ゲイ専門の恋愛詐欺師・黒木は、資産家の御曹司・西園寺をたらしこむことに成功する。だが、西園寺から金と愛情を湯水のように与えられるうち、調子が狂ってきて――

「今夜は断われない会食があるから」
 蜜のように甘い情事の一時間後には、西園寺は涼しい顔で、仕立てのいいスーツに身を包んでいた。
「夕食は、黒木さんの分だけ作らせてあるけど。外食したかったら、これ使って」
 無造作にマネークリップを渡され、その札束の厚さに、黒木は内心ぎょっとする。
 一般庶民の生活なら一、二か月は過ごせそうな大金だ。
「良貴……その――」
「少しでも黒木さんと離れるのはさびしいよ。僕が帰るまでには、ちゃんと戻っていてね」
「あ、ああ……」
 黒木が気おされてうなずくと、西園寺は満足したようにほほえんで、すべるように部屋を出ていった。
「――なんだかな」
 とりのこされた黒木は、シーツをとりかえたベッドに大の字に倒れこむと、溜息とともにつぶやいた。
 西園寺と知りあって――正確には、黒木が西園寺に近づいて、そろそろ三か月になる。
 大きな声では言えないが、黒木はゲイ専門の恋愛詐欺師だった。懐の暖かそうなゲイ男性にとりいっては、さんざん貢がせ、言葉巧みに財産を巻きあげる。
 そうやって男たちを手玉にとり、生計を立てていた黒木のところへ、西園寺の噂を運んできたのは、皮肉なことに黒木を尾行していた悪徳探偵だった。
『あんた、どうせ騙すんなら、極上のカモを狙わなきゃ。俺と手を組まないかい?』
 探偵の情報により、とあるバーで西園寺に接触をはかった黒木は、難なく彼の気をひくことに成功した。
 うなるほど金のある資産家の三男坊。育ちがよく、容姿も性格も申し分ない。
 デートを重ね、体を重ね、なしくずしのうちに彼の持ち家にひっぱりこまれ――。
 気がつけば立派なヒモの立場におさまり、なに不自由ない暮らしが満喫できるようになったいま、黒木は、自分の詐欺師としての器に疑問を抱かざるをえなくなっていた。



◆この素晴らしき日々・抜粋
胃痛で倒れ病院に担ぎこまれた朝宮は、担当医の但馬から、余命わずかだと遠まわしに宣告される。荒れる朝宮に但馬は、「どうせなら心残りのないように遊べ」と提案し――

 教育者の家系に生まれ、厳格な両親に育てられた朝宮は、反抗期も知らないまま一流大学を卒業し、一流企業に就職して、エリートコースを着実に進んでいた。
 胃痛に悩まされるようになったのは、入社四年目にして、異例の出世が決まってからだ。
 上司からは期待していると檄を飛ばされ、郷里の両親からも、この調子でがんばりなさいと誉められた。そのことを誇らしく思うと同時に、少なからず重荷に感じてしまったのはいなめない。
 いつのまにか始まった胃痛が日増しにひどくなり、ついにピークを迎え――。
 気がつくと、病院のベッドの上だった。
「ちょっとした胃炎ですよ。胃潰瘍になりかかってますが」
 念のため精密検査もするとのことで、約一週間の入院。
 担当医は、但馬芳之という若い男だった。
 彫りの深い不機嫌そうな顔。無造作に撫でつけられた髪。白衣の上からでもわかる、鍛えられてひきしまった長身。
 医師というより、探検家とでもいわれたほうが納得できそうな雰囲気だったが、本場ドイツで免許を取得してきた優秀なドクトルだという。
 その適切な処置のおかげか、朝宮はじきに起きて動きまわれるようになったが、胃痛は完全にはおさまらなかった。
 洗面所で眼鏡をはずして顔を洗い、鏡を覗いてぎょっとする。もともと色白の顔が、青白くやつれて、まるで幽鬼のようだ。
「先生、本当にただの胃炎なんですか?」
「そうですよ」
 そっけなく返され、漠然としていた不安がかえってはっきりと形をとった。
 ――もしかしたら、もっと悪い病気なのかもしれない……。
 退院の許可がおりたときも、痛みは依然として続いており、朝宮は念を押して尋ねた。
「本当に、退院しても大丈夫なんでしょうか。痛みがいっこうに消えないんですが」
 すると但馬医師は淡々と答えた。



◆恥辱の代償・抜粋
竜成会の幹部・八坂は、玉川組の襲撃を受け負傷したところを、自分の右腕である天堂に救われる。だが天堂の目的は、八坂を監禁・陵辱することにあった――

 竜成会の本拠地が玉川組の襲撃を受けたのは、夜明け前のことだった。
 厳重な警備システムは、なぜかどれ一つとして作動せず、寝込みを襲われた構成員の過半数が、何が起こったか把握する間もなく命を落とした。
 別棟に詰めていた八坂たちが駆けつけたときには、すでに一切が手遅れだった。
 八坂は銃を抜いて応戦したが、じきに右腕を撃たれ、目の前に銃口を突きつけられた。
 間一髪のところを救ってくれたのは、だが、天堂だったはずだ。
 討ち死に覚悟で再度突撃しようとする八坂を抑え、天堂は言った。
「もう駄目です。ここはひとまず逃げて、後日存分に報復してやりましょう」
 彼に援護されながら外へ逃げた。
 あらかじめ用意してあったように停められていた天堂の車。
 そうだ。それに不審を覚えて振りかえろうとした瞬間、首筋に衝撃を受けたのだ。

「――何の真似だ、これは」
 自分を気絶させたスタンガンの動きを目で追いながら、八坂は唸るように言った。
 天堂が竜成会にやってきたのは、一年ほど前のことだった。物静かだが肝のすわったところが気に入り、若手幹部の八坂が目をかけてやっているうちに、みるみる頭角を現し、八坂の右腕と目されるまでになっていた。
 その天堂が、なぜ今になって、自分にこんな仕打ちをするのか。
 戸惑いながら天堂を観察していた八坂は、相手の襟に小さく光るものを見つけて、怒りの声を上げた。
「そのバッジ……!」
「そう、俺は本当は玉川組の幹部だ。昨夜の襲撃の手引きをしたのも、俺だ」



◆さまよえる男たち・抜粋
フリーターの和志がつきあっている相手は、18歳年上で、大企業の部長で、妻子持ちの保憲。和志は、保憲が一方的に訪れるのを待つだけの日々を送っていたが――

 最初はただただ刺激的だった。
 予告なくふらりと現れる男。快楽を追うだけのセックス。甘いささやきも、次回の約束もない、ドライな関係。
 なんどか会ううちに、和志は、保憲が某大手企業の部長で、妻も子どもも持つ身だと聞きだした。
 専門学校を卒業したばかりで、フリーターをしている和志には、まるで縁のない世界だ。これまで和志がつきあった男たちには、そういう境遇の者は皆無だった。物珍しさも手伝って、和志は保憲に強く惹かれた。
 どれほど情熱的なひとときを過ごしても、終わってしまうと保憲はつれない。仕事があるから、妻子が待っているからと言って、必ずその日のうちに帰ってしまう。
 そんなところも気楽でいいと思えたのは、ほんの数週間だけだった。逢瀬を重ねるうちに和志は、保憲が自分を残していくことに不満を覚えるようになった。
 妻のいる家になど、帰したくない。自分のことだけを見てほしい。
 いつのまにか、保憲のことを本気で好きになってしまったのだ。
 ――まいったな。俺ってば、マジであいつのこと……。
 自分の気持ちに気付くと、いままでなんとも思わなかったことが、いちいち気にかかるようになった。
 親子ほども離れた年齢。社会的に認められた立場の保憲に比べ、だらしないと思われがちな自分の職業。
 別世界に住む保憲が、自分などを相手にしているのは、単なる気まぐれだ。自分が彼の恋愛の対象にしてもらえるとは、とうてい思えない。
 それに、妻子がいるというのは最悪な条件だった。和志は男しか相手にできないが、保憲は違うのだろう。彼が自宅で、自分にするように妻を抱いているのかと思うと、和志は嫉妬で目の前が暗くなった。



◆危険な心理相談・抜粋
勇司の担当する心理相談の電話窓口には、同性を強姦したいという匿名男性からの電話がひんぱんにかかっていた。そのうち、勇司の身辺にストーカーの影がちらつきはじめ――

「そんな心配は無用ですよ。相談者の秘密は絶対に漏らしません。だいたい、そういった妄想はだれでも考えるものなんですから、そこまで思いつめることはありませんよ」
『理屈では、あなたの言われることもわかるんです。でも――』
 相手は、答えの出ない悩みをいつものようにえんえん話しつづけ、やがて『少し落ちつきました』と言って電話を切った。
「なんだ、また例の相談か?」
 勇司が大きな背伸びしていると、ドアが開き、白衣を着た壮年の男が入ってきた。
 北川幸介。精神科医で、この北川心理クリニックの院長だ。
「そうなんですよ。来院を勧めたんですが、また例の調子で断わられちゃいました」
「彼の目的は、相談じゃなくて、君と話すことなんじゃないのか?」
「ええー? そんなことないでしょう」
「だって彼は、ゲイなんだろう? 案外、君のことが好きなのかも」
「まさかぁ。声しか知らないのに」
「そこがミソなんだよ。まあ、やっかいな相手だとは思うが、試験のためと思ってがんばるんだな」
 勇司は臨床心理士を志望しているが、実務訓練機関のない大学院を出たため、受験には一年以上の実務経験が必要とされる。
 相談員としてここに就職して一年弱。まだまだ修行中の身だが、最近になって、電話による心理相談の窓口を任されるようになった。
 いまの相手は、その番号にかけてきた一人で、男性同性愛者であり、同性を強姦したい衝動に駆られるというのが相談内容だった。
 話を聞くとかなり深刻なのだが、世間体を気にしているのか、いくら来院を勧めてもうんと言わない。言わないが、電話は毎日のようにかけてくる。
「先生。こういう人には、どうアプローチすればいいんでしょうかね?」
 だが、北川の答えを聞く前にまた電話が鳴り、勇司は急いで受話器をとった。
「はい、北川心理クリニック、電話相談窓口です――」



◆不幸の友人・抜粋
順風満帆な日々を送っていた洋平のもとに、留学したきり音信不通になっていた高校時代の親友・薫から、帰国の知らせが届く。会いたいと言われてうれしい半面、不吉な予感が脳裏をよぎる。薫は洋平にとって、不幸を呼ぶ男だったからだ――

 その夜、帰宅した俺は、郵便受けの中に不幸の手紙を発見した――。

 といっても、かの有名なチェーンメールではない、俺にとってだけの《不幸の手紙》。
 封筒の表には、整った筆跡で《小野田洋平様》と書いてある。差出人の名前は立花薫。留学して以来音信不通になっていた、高校時代の親友だ。
『前略 ご無沙汰していましたが、お元気ですか? このたび、無事に海外での学業を終え――』
 内容は帰国報告だった。手紙を読みはじめたとたん、さまざまな想いが一気にあふれだし、一瞬胸が苦しくなった。
 ――あの薫が帰ってきた!
 思えば、中学までの俺の人生は、順風満帆だった。
 勉強もスポーツも得意なほうで、ルックスも悪くはなく、いつも友人に囲まれていた。
 それが、第一志望の某有名私立高校に入学してから、いや、正確には薫と親しくなってから、急転直下、なにもかもがうまくいかなくなったのだ。
 女子とつきあってもすぐにふられる、成績は下がる、誤解されて周囲から孤立する、軽い交通事故にあう、エトセトラ、エトセトラ……。
 そんな苦境のなか、俺の理解者は薫だけだった。
 必ずそばにいて、愚痴を聞き、慰めたり励ましたりしてくれる。俺が白い目で見られても気にせずつきあってくれ、ばあいによっては相手を諭したりもしてくれる。
 当時の俺にとって、彼がどれほど心の支えになっていたことか。
 だがそのうち、俺は気づいてしまったのだ。ほかならぬ彼が疫病神であることに。
 災難は、決まって彼がいっしょのときにやってきた。逆に、たまに都合で彼がいないときには、拍子抜けするほど平和だった。
 ――不幸を呼んでるのは、じつは薫!? 薫はいいやつだけど、このままじゃ俺がどんどん不幸になっちまう!!
 彼とはいっしょにいたいが、彼の呼ぶ不幸は怖い。俺は葛藤をかかえながら、毎日を戦々恐々とすごすようになった。だが、高校卒業と同時に、彼は海外に留学してしまい、それ以来音沙汰がなくなってしまったのだ。
 かってなもので、俺は、彼がいなくなってほっとすると同時に、裏切られたような気持ちになった。


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